志村貴子「敷居の住人」

人間関係は基本的にラブコメだが、他のラブコメと一線を画しているのは本質的な主題がそれではないからだろう。この作品の本質的な主題はいじめられっ子キクチナナコの心の再構築のもがきだと思う。ミドリちゃんは読者へのフィルターであり、クッションであり、鏡だ。ミドリちゃんの心は成長しないし本田家の家庭環境にも大した進展は無いのに対し、キクチナナコの心と周囲には何だかんだ言って色々と変化が起きている。そんでミドリちゃんは振り回されるわけだ。早川さんが自分から手紙を書いたわけではないという点が残酷というか何というか。

また、二人は暗くて後ろ向きな人……というよりも、より正確に言うと二人は自分自身のことを暗くて後ろ向きな人間だ思っている、という点が大切だ。なんかさっきから当たり前のことばかり書いてるな。

あと、中盤にモノローグが多い点やキャラクターの顔の変遷、演出手法の洗練などなど、志村貴子が駆け上がっていった階段を実感できるのが大きな楽しみだろう。6巻の頭のほうで所々見られた口をとんがらせた表情は、かわいいのにその後の他の作品では使われていないようなので是非使ってくれ。

優れたマンガ家は皆それぞれの峰の頂にいるものだが、この人も間違いなく一つの頂点にいる人だろう。